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福岡地方裁判所 平成元年(わ)1303号 判決

主文

被告人Aを懲役一年六月に、被告人Bを懲役六月に、被告人Cを懲役一年に、それぞれ処する。

被告人Cに対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人Aは、昭和六三年七月下旬ころから同年八月二二日ころまでの間、福岡市博多区比恵町《番地省略》の被告人B方において賄博場を開張し、賭客Dほか十数名をして、財団法人日本高等学校野球連盟等が主催する第七〇回全国高等学校野球選手権記念大会における野球試合の勝敗に関し、一口一〇〇〇円の割合で金銭を賭けさせ、俗に「野球賭博」と称する賭博をさせて右賭客から寺銭名下に金銭を徴し、もって賭博場を開設して、利を図った。

第二  被告人Bは、被告人Aが前記第一の犯行をなすに際し、その情を知りながら、賭博申込書を賭客に配布、回収するなどし、もって右Aの犯行を容易にさせてこれを幇助した

第三  被告人Aは、暴力団山口組伊豆一家甲野組組長、被告人Cは、被告人Aと親交を有し、不動産取引を業としているものであるが、右被告人両名は共謀の上、裁判所の競売不動産を被告人Cにおいて有利に買受けることを企て

一  福岡地方裁判所が平成元年一一月一四日から同月二一日まで期間入札する旨決定した福岡県太宰府市青葉台《番地省略》の宅地(二三八・〇五平方メートル)及び同所所在の木造瓦葺二階建居宅(延べ一〇七・六四平方メートル)につき、その買受希望者の自由かつ公正な買受申出を阻止・牽制すべく、同年一〇月三〇日ころ、被告人Cにおいて、右居宅の玄関等三か所に「告、本物件に、何人たりとも立ち入りを厳禁する。伊豆一家甲野組」と墨書した紙(平成元年押第二七八号の1ないし3)を貼付し

二  同裁判所が同年一一月二〇日から同月二七日まで期間入札する旨決定した福岡市東区箱崎《番地省略》の宅地(一一・三三平方メートル)、同所《番地省略》の宅地(一〇八・三三平方メートル)及び同両所所在の木造瓦葺二階建居宅(延べ八〇・三八平方メートル)につき、その買受希望者の自由かつ公正な買受申出を阻止・牽制すべく、同年一〇月三〇日ころ、被告人Cにおいて、右居宅の玄関等三か所に前同様の紙(前同押号の4ないし6)を貼付し

もって、それぞれ威力を用いて公の入札の公正を害すべき行為をした

ものである。

(証拠の標目)《省略》

(累犯前科)

被告人Aは、(1)昭和五七年二月一五日福岡地方裁判所で恐喝未遂罪により懲役八月執行猶予三年(同五九年八月三〇日右猶予取消)に処せられ、(2)同五九年七月二五日同裁判所で右猶予の期間中犯した恐喝罪により懲役一年に処せられ、同六一年一月二四日右(1)の刑の、同年二月一二日右(2)の刑の各執行を受け終ったものであって、右の各事実は検察事務官作成の前科調書(検56号)及び各判決書謄本(検57、58号)によってこれを認める。

また被告人Bは、(1)昭和五七年九月三日福岡地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役一年保護観察付執行猶予三年(同五九年八月二九日右猶予取消)に処せられ、(2)同五九年七月三一日同裁判所で右猶予の期間中犯した恐喝、窃盗未遂、道路交通法違反の各罪により懲役一年六月に処せられ、同六〇年一〇月二二日右(2)の刑の、同六一年九月一二日右(1)の刑の各執行を受け終ったものであって、右の各事実は検察事務官作成の前科調書(検64号)及び各判決書謄本(検65、66号)によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人Aの判示第一の所為は刑法一八六条二項に、被告人Bの判示第二の所為は同法六二条一項、一八六条二項に、被告人A及び同Bの判示第三の一、二の各所為は同法六〇条、九六条の三第一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に各該当するところ、判示第三の罪につき所定刑中懲役刑を選択し、被告人A及び同Bには前記の前科があるので刑法五六条一項、五七条によりそれぞれ再犯の加重をし、被告人Bの判示第二の罪は従犯であるから同法六三条、六八条三号により法律上の減軽をし、被告人Aの判示第一及び第三の一、二の各罪、被告人Cの判示第三の一、二の各罪は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、被告人Aについては最も重い判示第一の罪の刑に、被告人Cについては犯情の重い判示第三の二の罪の刑に、それぞれ法定の加重をし、以上各被告人につき前記のとおり法定の加重又は減軽をした各刑期の範囲内で、被告人Aを懲役一年六月に、被告人Bを懲役六月に、被告人Cを懲役一年にそれぞれ処することとし、被告人Cに対しては同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予することとした。

(量刑の理由)

被告人Aは暴力団山口組伊豆一家甲野組々長であり、また伊豆一家の事務局長の地位にあるものであり、前記のとおり恐喝等の前科を有し、判示第一のように賭博を開張し、高校野球の勝敗について一口一〇〇〇円で十数人の賭客を勧誘し、総賭金額三一万七〇〇〇円、総払戻額一五万七五〇〇円で、差額合計一五万九五〇〇円をいわゆる寺銭として利得し、これを組員らに小遣いとして与えたもので、手口も単純で、規模も大きいとはいえないが、寺銭の利得率は高く悪質である。

また判示第三の一、二の競売入札妨害は、相被告人Cと共謀のうえ、競売物件に公然と暴力団の名を使用した大きな貼紙を貼付し、裁判所による公正な競売手続を妨害したものであって、暴力団の名を悪用し、近隣にも不安を与えたうえ、事件が暴力団による反社会的行動としてマスコミ等で大きくとりあげられて社会的影響も大きく刑責は重大である。実際現場に判示のような貼紙をしたのは相被告人Cで、被告人Aはその頃判示第一の事件で逮捕勾留中であったが、競売ブローカーである相被告人Cから事前に相談を受けて伊豆一家甲野組の名を使用することを承諾し、右貼紙コピー原本の内容の清書を自ら知人に依頼して作成してもらうなどしていたものであり、その責任はやはり重いといわなければならない。

被告人Bは甲野組々員であり判示第二のとおり、判示第一の賭博開張図利幇助を行ったもので、前科関係等をも考慮すると、その刑責は決して軽いものとはいえない。

被告人Cは、相被告人Aと共謀のうえ、判示第三の一、二の各競売入札妨害罪を敢行し、前記のとおりその犯行態様は悪質で結果も重大であり責任も決して軽くはないが、これまでとくに重視すべき前科等はなく、改悛の情も顕著である。

以上、本件にあらわれた各被告人について有利、不利一切の諸事情を考慮し、主文のとおり刑を量定した。

(検察官求刑、被告人Aに対し懲役二年、被告人Bに対し懲役八月、被告人Cに対し懲役一年)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田京子)

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